『得たもの、失なったもの。』
大阪に向かっている。
こだま号で。
東京新大阪間、各駅に停まりながら4時間弱の旅。
今日はいい天気。
私の席の前には『リニア鉄道館』の広告が。 JR東海の鉄道博物館。
『高速化への挑戦』企画展とある。
鉄道は年々進化を続けている。特にスピードアップ。
それによって時間を得た。
今まで演奏旅行の一泊の行程だった所も、日帰りになった。
行きと帰りの車内は、ひたすら寝る場所。
リニアモーターカーが開通したら、さらに時間を得るだろう。
三島駅に5分停車。
ホームに出て富士山を眺める。
うっすらと霞んだ空と富士山のりんかくが滲んで、なにか大きな絵を見ているような錯覚におちいる。
新富士駅の停車中、ホームの売店でお弁当を買ってきた。
巻狩り弁当。
新富士駅の名物弁当。
こだま号が3分から5分間停車する駅があるたびホームに出て、売店や弁当をひやかしたりする。
ホームから外を見ると、のどかな田園風景。なんでもない風景を、ただながめる。
こだま号は車内販売が廃止された。
かつてはこだま号でも、帝国ホテルや都ホテルが車内販売を担当した。
ホテルのボーイのような白い服を着た、帝国ホテルの車内販売からコーヒーを買った時には、なんかリッチな気分になったものだ。
関ヶ原にさしかかった頃、日が傾きだした。
この風景を以前見た。
確かに見た。
その思いが込み上げてきた。
いつ誰と見たのか。
そうだ。
あれは私の子供の頃の家族旅行。
新横浜駅からこだまに乗って京都まで。
長かった。
各駅に停まる駅が、永遠に続くように思われた。
父母と妹4人、お弁当を食べてジュースを飲んでお菓子を食べて。
車内販売が売りに来るたび、何を買ってもらおうか考えた。
関ヶ原での夕景のこの頃、もうすぐ京都だよと知らされた。
旅の目的は目的地に着くこと。
しかしその旅の途中にこそ、旅の楽しさがあるのではないか。
街の灯りがまばゆくなる頃、新大阪駅到着のアナウンスがながれてきた。
私の乗っている車両の乗客は、私一人になっていた。
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