『夢の一夜。』
ここは那須の山あいにある温泉地。
創業350年の、江戸時代から続く癒しの宿。
この宿に初めて訪れたのは、通芳がまだお腹の中にいる頃。
それ以来、年に一度はこの宿に来て癒された。
思い出深いこの宿で、三味線の演奏をすることになった。
私のお客さまもたくさん来て下さった。
宿の宿泊客とともに、演奏するロビーはたくさんのお客さま。
今までの、癒しや思い出をいただいた感謝の気持ちを込めて、一生懸命の演奏。
演奏後は、 わざわざ演奏を聞きに、那須の山あいの宿まで来て下さった私のお客さま方と共に、お食事。
なんか子供の頃に、親戚の人たちが訪ねて来てくれた時のような気持ち。
楽しくて、食べる暇がない。
今日のお客さまの中に、30年前から私の演奏を聞いていただいている方がいた。
もう全てから引退され、今は施設に住まわれている。
足を悪くされ、つらいリハビリを続けていらっしゃると聞いていたが、今日はお一人で杖をついて新幹線に乗って来られた。
昔はどんな遠い場所にでも、私の演奏を聞きに来て下さった方。
私は、隣の席に座らせていただく。
「今日は、死ぬ前にあともう一度だけ、佐藤さんの演奏が聞きたくてやって参りました。今日は、本当にいい日になりました。」
私の胸は切なく、ズキンと痛んだ。
この人たちに、私は支えられてきた。この人たちがいたからこそ、私は演奏が続けてこられた。
ただただ有り難く、頭を下げることしかできなかった。
夢の中のような一夜は、更けていった。
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