『大船渡』
東北新幹線水沢江刺駅からお迎えのバスで、大船渡市リアスホールに向かう。
色づき始めた山々に、分け入るように右へ左へ山道を登る。
たくさんの復興工事のトラックと行き合う。
やがて峠をこえ、道を下りると大船渡の街並み。
一時間半でリアスホールに到着。楽屋入り。
大ホールのサウンドチェック。柔らかくてとてもいい音色だ。
よし!
明日は大船渡市の皆様の幸せを祈って、一生懸命の演奏をする。
ホテルへ、スタッフの方に車で送っていただく。
ホールから海沿いの街に入ると、景色が一変した。
見渡すかぎり何も無い。
所々ぽつんと鉄筋の建物が残っているだけで、あとは一面の原っぱ。
鉄道線路も草ぼうぼう。踏み切りは無くなっていた。
震災後1年半以上たっても、復興は何も手がつけられていないみたいに見える。
大きなスーパーの廃墟。
このスーパーの業務用エレベーターの中から、先週遺体が見つかったとのこと。
『何も、こんなすざましいところを通らなくてもいいじゃないか。』と、
思っていたら、そのスーパーの廃墟のすぐ隣が今夜のホテル。
ホテルには、復興工事の作業員らしい方ばかり泊まっている。
みんな頑張ってる。
翌日は昼前に野外のイベント会場で演奏。その後は大ホールで。
一生懸命の演奏。
皆さん、たくさんの拍手をくれた。
『やーやどー』の掛け声も、大きな声でかけてくれた。
でも、やはり何となく元気が。
そりゃあそうだ。
あんなすざましいめにあったのだから。
『私には何にも出来ない。私には何にも出来ない。』そういう声が耳元で聞こえる。
仕方がない。
『もうどうなってもいい!』
ただただ思いっきり、バチを三味線に叩きつけた。