« 2008年11月 | トップページ | 2009年6月 »

2009年1月25日 (日)

『一つ一つが、一度きりの演奏。』

今日は立川の高齢福祉施設でのコンサート。
この施設では月に一回、いろいろな音楽家を招いて
コンサートを開いているそうです。

お客様は施設の方以外にも、ご近所にお住まいの方々もいらっしゃいます。
会場に着くと舞台や音響のチェックをしてから、弟子の星野君と
施設の食堂のお昼をいただきました。

開演時間が近づき紋付き袴に着替えていると、
『もうお客様がいっぱいです。こんなにたくさんのお客様が入ったこと、
今までありませんでしたよ。』とのこと。
とても嬉しくて、なんか気分が上向いて来ました。

演奏中は演奏に集中出来て、あっという間にプログラムが
終わってしまいました。施設の方々もご近所の方々も、会場で
一つになり私の演奏もお話しも、食い入るように聞いてくださいました。

楽屋で着替えていますと、何人かのお客様が楽屋を訪ねてくださいました。
その中の一人の方が、昔のソロCD『ジョンカラ』を私に見せて、
「10年前に佐藤さんのコンサート行って、サインしてもらったCDです。」
「今日もサインしてもらえますか?。」と、おっしゃいました。
私がサインさせていただいている間にされた、その方のお話しが胸にしみました。

「10年前コンサートには妻と母親と三人で、一番前で見たんですよ。
でもその妻は三年前に亡くなりました。妻とはいつも『佐藤さんの三味線の演奏、
よかったね。』と、話していましたので、妻の葬式では佐藤さんのこのCDを流して
妻を送ったんです。昨年母親も亡くなり、今では一人暮らしです。」
「今日も一番前の席でコンサートを聞きました。10年前に三人で行った佐藤さんの
コンサートが、昨日のように思い出されて、涙が止まりませんでした。」
奥様とお母様と三人で来てくださった一度のコンサート。
この三人の方達にとって、たった一度きりのコンサートが生涯の思い出に
なったのです。とてもありがたいことだと思いました。
そしてまた、私にとっては年に何十回するコンサートでも、お客様にとっては
とても大切な一度きりのコンサートになるかもしれない。

『一つ一つの演奏が、お客様にとっても私にとっても、一生に一度しかない
大切な演奏なのだ。』と、思ったのです。

| | コメント (0)

2009年1月 1日 (木)

「お正月のめでたさよ。」

お正月のめでたさとは、『終わり無き世のめでたさに。』と、
歌にもあるように。
時に終わりが無いことを祝うめでたさなのでしょうか?

作家山本七平さんの書いた本の中で、第二次世界大戦中
召集された山本さんが、フィリピンへ向かう輸送船の甲板から
真っ赤な夕陽を見た時、『この夕陽がずっと沈まないでほしい。』と
願ったそうです。
敵潜水艦がうようよいるバシー海峡で、いつ輸送船が
沈められるかわからない。

そのような時だから『どうかこの太陽を、明日も見ることができますように。』と、
思ったのです。イースター島のモアイ象も、古代人がやはり同じように
『明日も太陽が上がりますように。』と願って作ったのだという話しを
聞いたことがあります。

時の流れの永遠。それがありがたく、めでたいのでしょうか?

早朝、通芳から電話あり。『特急踊り子号の自由席は何号車なの?
車内販売はある?』。今日通芳は、伊豆のリゾートマンションの
ラウンジライブ演奏に行ったのです。かつては、私と二人で行った旅でした。
このリゾートマンションでの1月1日の演奏は、私が20年近く前からさせて
いただいた仕事です。
通芳が中学三年生の時に、初めて通芳をこの演奏に連れて行きました。
演奏前レストランで二人、食事をごちそうになっている時、『三味線ひきはいいぞぅ。
いろんなところに行けて、おいしいものは食べれるし。女の子にはもてるし。
おまえも三味線ひきになるか?』 と、私は通芳に言ったのです。
そして『もし三味線ひきになるなら、ここの演奏の仕事はおまえにあげるぞ。』と
言うと、通芳はなんと目を輝かせて大きくうなづいたのでした。

その後この1月1日の演奏には、二人で四回行きました。
そして前回からは通芳一人で行くようになったのです。

何年も何回も演奏させていただいた場所に行かなくなるのは、とてもさみしいものです。
ましてここの演奏は、20年近くも通っていたところです。でも不思議と、今回は
寂しさを感じないのです。
通芳が演奏することによって、通芳を通してこの演奏とお客様を私も
感じることが出来るような気がするのです。
そして毎年私の三味線を楽しみにしていただいたお客様達も、通芳を
通して私をも感じてくださるのではないかと思えるのです。

もうすぐ8時。あちらでは開演の時間です。
所長の新年の挨拶のあと通芳が紹介されます。
紋付き袴姿の通芳がスポットライトの中に登場。それを拍手で迎えるお客様達。
すべて私には、まるで見えるようにうかんでくるのです。

永遠に続く時の流れ。なんとめでたいことなのでしょう。

新年 明けましておめでとうございます。 元旦。

佐藤 通弘


| | コメント (0)

« 2008年11月 | トップページ | 2009年6月 »